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もっとまともな議論 [算数・数学教育について]

先日,デジタル教科書・ICTの教育への導入に関する意見を書いた。

挑発に乗ってみた
http://takuya-sobukawa.blog.so-net.ne.jp/2013-04-05

ご覧いただければわかる通り,この関連でよくテレビに出てくるタレントさんの意見にかみついたものである。残念ながらそのタレントさんには私の書いている論旨を理解してもらえなかったようであるが,そこでほとんど「頓珍漢なことをいうバカ」扱いされたので,その続編として少し議論をしてみた。

スルーを受けて
http://takuya-sobukawa.blog.so-net.ne.jp/2013-04-09

で,これらは
論理的にものを考えることができなければ,いくらICTを導入しても意味がないし,その前に論理的にものを考えるためのトレーニングに対して妨げになる,害を及ぼす
という立場で議論したものである。

ところで,一応私の専門は数学と数学教育である。その関連で,いつも当ブログに鋭いコメントを下さるEMTTさんが,そちらにもう少し深入りした形でこのブログへのコメント連投の形でご意見を下さった。

このご意見は,算数・数学教育の立場からきちんと具体例を挙げて述べられたもので,長くはないが最も大切な本質をついている。誰にも見てもらえないコメント連投ではあまりにももったいないので,ご本人の許可はいただいていないが,ここにそのまま並べて挙げさせてもらう。

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僕も中村さんの10の質問に答えようとしても答えることができませんでした。
僕の師匠の一人が中村さんと仕事をされているので、否定しにくいところがありますが、この質問では、本当に否定している人たちの真意にはアプローチできないと思います。

具体的なところで議論をするために、手っ取り早いところで、デジタル教科書教材協議会のサイトを題材にします。まあ、この協議会の会員、役員に教育関係者が蔭山さんだけというところが、端的に問題を表しているように思います。

by EMTT (2013-04-12 19:27)

さて、「デジタル教科書・教材の普及推進について」というページを見ますと、シーモア・パパートの言葉で「教授法はこの150年で変化していないからだ」を引用していますが、それはアメリカの話で、”Teaching gap”で示されたように、日本は授業研究のおかげで、教授法が劇的に進歩していることが認識されていません。算数数学教育関係者の間では、常識ですよね。

また、ここで「日本に最先端の教育環境を整えましょう」とあります。これに賛成ですが、「最先端の教育環境」とはデジタル化された教育環境を言うのでしょうか。例えば環境、ゴミの問題を学ぶのに、パソコンとネットで学ぶのと、ゴミ処理の現場を見学するのとでは、どちらが最先端なのでしょうか。
ゴミ処理の現場への見学は難しい、その代替としてデジタルだ、というのなら分かります。それを差し置いて、デジタルを最先端と言い切ってしまうのは、野球を実際にするより、野球ゲームのほうが最先端のスポーツだ、と言っているように聞こえます。

最後の段落に「IT産業を成長のエンジンとすべきです」が本音なのでしょう。
http://ditt.jp/about/promotion.html

by EMTT (2013-04-12 19:28)

次に実証レポートをもとに指導法の側面を見ましょう。
http://121.119.176.71/office/DiTTproject2011.pdf

もし、この授業を理想とするならば、やはり反対すべきですね。本気でこれをよい授業と思っているのでしょうか。
31ページ以降で「立体の展開図」の学習があります。なぜPCを使うのか、理由が理解できません。
実際に「展開図のパターンを複数考えられない子どもには実物の立方体を渡している」とありますから、そっちのほうがよいことが明白です。
展開図や立体の学習ならば次のような学習の方が明らかに多様性に富み、理解が深まります(いずれも坪田耕三先生の実践)。
http://www.sinzaemon.jp/hands/hs_071203.html
http://www.sinzaemon.jp/hands/hs_071217.html
http://www.asahi.com/edu/student/teacher/TKY200705020271.html

デジタル教科書の実証レポートで紹介された実践は、実は、決められた範囲でしかなくて子どもの多様な考えにはついていけないでしょう。
PC上で、坪田先生の円柱の展開図を書くことは、ほぼ不可能です。結局はPC上で出来る範囲での発想に閉じ込めています。

そんなところが、中村さんへの反論になります。
長々と失礼しました。
by EMTT (2013-04-12 19:28)

僕は、大学の時にレッサー教授(セサミストリートの製作者)の授業を受けたことがあります。
セサミストリートの根底には、勉強は楽しくないからTV、コマーシャリズムの力で、勉強を楽しくしよう、という発想が流れていると言われています。
デジタル教科書を進める多くの人には、同じようなものを感じます。鉛筆とノートだけでも、知的で、楽しくて、豊かに発想できる学習があります。数学の問題などは、まさにそのようなものだと思います。
デジタル教科書を進める人は、それに気付かない、知らない人たちのように感じます。
by EMTT (2013-04-12 19:40)
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virtual 世界での認識は本当の人間の認識ではない,五感を使って認識すべきである,というのがその根幹にあると見た。とても大切な意見で,先のシリーズで私が全く触れなかったことである。

EMTT氏には私の勝手な行動をお詫びするとともに,建設的な素晴らしい指摘に深く感謝する。


他人の褌で相撲を取るとはこのことかも。

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コメント 5

EMTT

わざわざこのようなエントリーを作成頂き、まったく恐縮の至りです。推敲も重ねないまま書きなぐった感がありますが、ご容赦ください。

以前も書きましたが、まだまだ、カラオケで音楽をやったつもりになるのと近いと感じています。

デジタルがすばらしいのであれば、抽象論で語るよりも、よい授業例を見せてもらえれば、教育関係者は納得できると思いますが、実証レポートを見る限りでは、通常の研究授業の協議会でボロボロに批判されるような授業例です。

学力調査などで課題になっている点にも応えることができるのか、そうしたことにも考えられていないとも思います。
例えば、量感や数感覚に今の小学生が乏しいことが学力調査で明らかですが、それをデジタルでクリアできるのでしょうか。
推進派の方々には、そこに気付いてもらいたいと思っております。

by EMTT (2013-04-13 16:00) 

sobu

EMTTさんのコメントの中で,大切なことを挙げるのを忘れていました。コンピュータは人間の考えを制限する。コンピュータで対応できること,プログラムを組んだ側が知っていることに限定されます。だから私はパワポが嫌い。
by sobu (2013-04-14 21:19) 

●“教育ブログ】

記事を拝読しました。デジタル教科書は頭に入りにくいのでは(?)と懸念します。
by ●“教育ブログ】 (2013-05-16 13:50) 

EMTT

東京ビックサイトで教育のITソリューションEXPOに参加しました。
いくつか、タブレットPCを使ったデモ授業を見ましたが、酷いものでした。
三角形の内角の和をもとに、四角形の内角の和を求める求め方が、「三通り」で、コンパニオンのお姉さんが、「子どもの多様な考えを引き出します」と説明していました。
実際の授業では、そんなものではありませんね。頂点から対角線を引くことしか想定していません。子どもは、辺からも補助線を引きます。
前に見たすごい授業では、三角形の一辺の任意の点を180度の角とみなして、三角形を四角形と見る子どもがいました。こんな発想は、まず出ないでしょう。
特にこの学習では、三角形の内角の和から演繹的に四角形の内角の和を求めることから、「演繹的」な考え方を伸ばすところですが、会場のモデル授業では、そのような視点はまったくありません。「四角形の内角の和」がどうかを覚えることが主眼のようです。

これを使ったモデル授業を倉敷の先生がされています。
http://www.ntt-edu.com/news/2012/10/post-25.html
実際の先生なので、ずいぶんましな印象もありますが、思い切り黒板を活用していて、タブレットPCは、紙の代わりでしかないようにも思えます。

by EMTT (2013-05-24 20:30) 

sobu

>EMTT さん
せっかくの情報なのに,他のことにかまけて拝見するのが遅くなりました。

おっしゃる通りで,子どもたちの考えを型にはめないような授業をすることができるのは,授業者がよほど内容について練り込んで,使い方を慎重にしているときだけですね。

挙げてくださったモデル授業は,確かにPCが紙や黒板の変わりでしかないですね。まあコストパフォーマンスのことをさておけば,確かに授業の中の余計な時間を省略することはできるので,その観点ではいいものといえるかもしれません。

生徒たちが身体感覚を持つことができないのは仕方ないが,そことのバーター取引でしょうか。
by sobu (2013-05-28 18:29) 

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