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スルーを受けて [教育について]

せっかく中村伊知哉氏の挑発に乗ったのですが,認知したという連絡を最後に何も反応がないところをみると,どうもスルーされたようです。



この状況をみて2つの可能性を思いました。前の私の記事は,まだ「てにをは」は不完全なれど,議論としては十分なものだと思ってあげたつもりです。それがスルーされてしまったということは、


○ もっとはるかに立派な議論があって,それをすでに論破しているわけで,こんな田舎大学の3流教授の意見などに取り合っている場合ではないと判断された

○ あちこちでいろいろなレベルの人と議論した結果,この手の議論に辟易して,私の記事をまともに読む気になれなかった


前者なら,私もそんな立派な議論をされた方にお会いして教えを受けたいものです。

後者なら,中村氏もお忙しくて大変だなぁと思います。


さてそうは言っても,こちらも一応言い始めてしまったので,言い尽くして終わろうと思います。そこでもう一度中村氏の10の質問を読み返してみたのですが,大半は「無罪を主張するなら自分でやれ,と検察に言われているような類」の質問で,答えるのが難しく,またあまり意味がないと思います。ここでは一応議論になりそうな2つについて検討してみたいと思います。


4 デジタルを導入すると画一的な○×学習になるという指摘について、ネット授業は世界中の多様な考えの人たちと一つではない答えを教え合い学び合うことができるが、それに比べ紙のドリル学習のほうが画一的でないとする理由を教えてもらえませんか? つまり、問題はデジタルかアナログではなく、授業の内容だと思いますがいかがですか?
これも大変残念な質問の展開の仕方だと思います。すなわち,私が主張していることの根幹は,数学の世界に限定しますが,デジタル導入が悪いのではなく,ドリル学習がメインでそれ以外のところへ発展する力を奪うような状況を問題視しているのです。デジタル導入をしてもドリル学習のようなことしかできないと思います。そこにインセンティブがつくことは一見悪くないように思えるが,実はそこから先の発展を阻害してしまうのです。現状でも(紙の)ドリル学習の弊害が出ているわけで,そこについても改善すべきだと日々努力しています。少なくとも自分が係ることができる中等教育に対しては,このことを強調しています。それでも前稿で述べたように,大学入試センター試験がこれを阻害している。この状況で「ドリル的な」部分にさらにインセンティブをつけてしまうと,今の状況よりさらに悪くなる,次の段階へ進みにくくなる,と主張しているのです。




5 デジタルを導入すると読まなくなる・書かなくなるという指摘について、アナログ授業でも書かせなければかかないし、デジタル授業でも書かせれば書くし、つまり、問題はデジタルかアナログではなく、授業の内容だと思いますがいかがですか?
この質問も残念な形だと思います。私だけではないと思っているのですが,「ゲーム的理解」を中心に据えている学生たちに対して「書かせる」教育を施そうと日夜努力し,年々改良を加えながらも苦闘しているのが大学教育の現状です。大学では何も教えない,大学に行っても意味はない,大学教育には期待しないなどと言われていますが,自分は相当やっているつもりです。しかしそれに対して今以上に逆向きの力がかかるとなれば,待ったをかけざるを得ない。デジタル機器を用いた授業で書かせることはこれまでも現在もやっています。自分の頭で考えるような課題をだす。しかし彼らはコピペで済まないものはやろうとしない。面倒だと逃げてしまう。彼らのものの考え方が,大きなスパンで論理を展開するようなこと,議論を積み重ねることなどからさらに遠ざかる。このことが問題なのです。毎年内容も方法論も苦労して変えています。しかしいくら授業の内容を工夫しても,受ける側がそれ以上に変わってしまってはどうしようもない。100m走に例えるなら,今はスタートから5mのところに高さ50㎝の土塁が築かれ,それが溶けたゴムでおおわれているような状況を何とか乗り越えて,13秒ぐらいかかってゴールしている感じ。その土塁の高さが3mとなり,しかも撒き菱が散乱しているような状態になって,それでもプロなんだろ,それで給料もらってるんだから10秒以内で走れと言われても,それは無理というものです。唯一この手のことが成功しているのは,対面で行うゼミナール形式だけです。




それから最後に

番外 要するに、デジタル教育はやめたほうがいいんですか? どうすればいいんですか? 推進する首長たちは、リスクを取り、コストを払い、説明も怠りません。一方、反対派は体を張ってでも止めるべきだと思いますが、そんな話は聞きませんよね? ごめんなさい、答えにくいかもしれないので、問いを変えます。デジタル教育をしないほうがいいとしている手本となる国があれば、教えていただけませんか? あの国ぐらい?
とありました。ずいぶんお疲れなんだなと思います。こういう締め方をなさるのはいかがかと思います。私はどうも理解できません。「リスクを取り」とありますが,何に対してどうリスクをとり,コストを払っているのでしょう。まさか選挙とかいう話じゃないですよね。未来の社会に対する責任が問題なのに,誰のどんなリスクなのか,どういうコストなのか,全く理解できません。体を張ってでも止めに出ているつもりですよ。



現状ではデジタル教育はやめた方がいいと思います。若者たちに欠けている「自分の頭で考えること」に対するトレーニングを,その3倍ぐらい課すようでないと,つり合いは取れません。いくら

世界と瞬時につながり、映像も音楽も利用・生産できるなど、デジタルにしかできない効用がある
としても,それを受け取っただけ,消費するだけの人間を増やすことが社会全体の力を上げることになるのでしょうか。一部の人間が金儲けをするだけのことではありませんか。



一方で、考える力を十分に蓄えた人であれば,デジタル機器はどんどん使うべきだと思います。私自身も先日,J.S.Bachの「フーガの技法」のバッハの直筆譜をネット上で探し,演奏について根本から考え直すような経験をしたばかりですし,使いようがたくさんあることはよくわかっている。しかしそのためには先に自分の頭で物事を考えるトレーニングがいる。そのトレーニングの段階ではむしろデジタル機器は使わせないべきです。高校生ぐらいまではそういうトレーニングに掛ける。高卒・大学生レベルになったら,むしろどんどん使わせる。もちろん私は自分の周辺ではそれもやっています。


本ブログでも何度か取り上げた,クリフォード・ストール博士も同じような主張をしておられるとおもいます。どうなのでしょうか。


まあいずれにせよ,この主張もスルーされてしまうのだろうと思います。でも蟷螂の斧はおれません。


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sobu

一見関係ないが,こんなサイトを見た。
なるほどなと思ってしまった。すなわち,そんな何とか審議会に出てる人は暇な人なんだ。そうなんだ。。。。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130410/246465/?P=2&nextArw

by sobu (2013-04-11 17:02) 

小林 武則

新学期でめちゃくちゃ忙しいのですが
先生のブログを読んでコメントせずに
スルーするわけにはいかないと思いました。
私が、反応することではないのかもしれませんが
日々,中学生と接して数学を教えていますが
最近,教える内容など、何でもよくて
数学をネタにして物事の考え方や,自分の意見
の伝え方,人の考え方の受け取り方を生徒に
教えようと意識をしてやっています。
だから、物事の捉えやすいICTを利用するより
捉えにくい現象をいかに捉えやすくするのか
そこが、数学のよさでもあると思っています。
もちろん,問題自体が生徒にとって難解すぎる
ものは与えることはできませんが
レベルに応じて生徒の少し上を行く問題だったり
簡単な問題でも,違った見方ができないかを
考えさせたりすることで,生徒は意欲を持って
取り組みます。また、中学校数学では,確実に
答えが確認できるので、安心して生徒も自分の
考え方が説明できます。世の中には正しい答え
の無いものばかりですからね。
そして、一人だけで問題を解かなくても,
同じ目的を持ったもの同士が協力をして
問題を解くことができれば、世の中たいていは
OKですからね。
そんな力をつけるために,日々中学生相手に
奮闘しています。できなかったことができる
ようになった姿を見るのは楽しいですよ。
先生の蟷螂の斧の手助けになればと思い
コメントさせてもらいました。
by 小林 武則 (2013-04-12 00:06) 

sobu

>小林武則さん
コメントをありがとう。
教育の目的・本質という、最も大切な部分について述べて下さいました。
電器屋さん主導で動いているこの話、結局そういう機器を導入することありきの議論が進められている訳で、教育全般を見渡し、研究者として議論を挑むなんていうまともな話は通じないことがよくわかりました。我々現場の者は地道にやるしかありません。
by sobu (2013-04-12 05:23) 

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