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モーツァルト 楽劇「魔笛」 (バルセロナ・リセウ劇場) [2000-2001 in Barcelona]

モーツァルト 楽劇「魔笛」 (2000年12月28日(木)バルセロナ・リセウ劇場)

 ここ,バルセロナのオペラ劇場「リセウ」はミラノ・スカラ座に次ぐと言われる.だが,この劇場はおそらく世界でももっとも新しい劇場だろう.というのは,94年に古くからあったこの劇場が焼失.昨年秋に再建されたからである.この街に来るのは3度目,初回は85年だから火事の影響はない.昨年はちょうど滞在中がその再オープンの日に当たった.だが残念ながらこの劇場にはいるのは初めてである.

 12日にこの街に来て以来,本職の数学の研究のことや住まいのことなど色々なことがあり,オペラのことを考える余裕などなかったのだが,そう言っていては始まらないので,この日の昼にチケット売り場に行ってみた.チケットの入手は困難だ,とは聞いていたのだが「今日,明日なら全然見えない席で良ければある」というのだ.そしてそれ以降は我々がこのバルセロナを発つ3月まで,ほとんど完売だというのである.全然見えないということはないはず,とチケットを購入.値段はこの日が1700pts,次の日が2200ptsほどである.プラハの劇場の一番いい席の値段とほぼ同じだった.

 さて,開演は20時30分である.総計3時間はかかろうかというこのオペラをこの時間から始めるのは,まさにスペインらしい.実際,中心部ではレストランは22時過ぎから混むところも多く,フラメンコなども夜中がメインだそうだからまあそういうことか.

 言ってみると,外観は歴史的なものを残しているが,中はさすがに近代的な設備で作ってある.装飾などは昔のものを再現しているようだが,とても快適な空間だ.チケットは3階席(日本流には4階)の一番端.前列だが目の前にシャンデリアがあって確かに舞台は見えにくい.真下にオケピットが見える.だがこの劇場の大きさはどうだろう.試しにグラウンドフロアに降りてみた.平土間の席がおよそ700.周囲の軒下にはボックスもあり,グラウンドフロアだけで1000人近くを収容するようだ.1階席もお客さんがたくさん入れるように前が椅子席,後ろにボックスの2段構え.2階席も同様.3階以上はボックスはないが,2段構え.そして5階席(日本流には6階)まである.詳しくは他の資料を観て欲しいが,おそらく収容人員が2000人程度はあるだろう.確かに大きな劇場だ.

 開演前,オケピットを見に行った.プラハ・Stavovske Divadlo を観てきた私にとって,異常に大きなオケだ.弦が10-8-7-5-3.だが考えてみれば,これだけ大きな劇場なのだ.当たり前だと言えばそうだ.それから右側に2ndVn.これを生で観たのは久しぶりだったが,逆に右に2ndを8人も配することが出来るほど大きなオケピットだ,とも言える.

 演奏について書く前に「普通の」オペラハウスの興業について述べたい.私はプラハでたくさんの公演を見てきたからどうしてもそれが普通だと思ってしまうが,一つの演目をたとえば1ヶ月程度の間に10回ほど繰り返す,というのが普通である.プラハのように毎日どんどん出し物が変わって,何年も続くというのは普通ではないようだ.このリセウもしかり.今シーズンの「魔笛」はこの日が3回目で,1月まで総計10回ほどやるらしい.こうした形式がプラハの劇場のそれと何が違うかと言えば,もちろん連日演じるのだからリハーサルからの間もなく,キャストもきちんと準備をして揃えた上で公演が行われるということだろう.プラハでは「久しぶりだなぁ,この演目」と言いながらぶっつけ本番ということが多いので,(プロのレベルで言うところの)事故や粗さが目立つことは否めない.それを考えた上でこの日の公演に行った.

 とは言え,キャストや指揮者をそれぞれ2人か3人を用意するのは当然である.言っては失礼だが,プログラムによればこの日は第2セットの初日であった.だが完璧であるとは言えないが,ちゃんと練習を積んだ上での公演であることは分かる.プラハではぼろくそに言った「巫女3人組」のハーモニーなども申し分ない.歌手陣もそうだが,すごいと思ったのはオケである.こんなにすごいいいオケが聞けるとは思わなかった.長いオペラなのであるから,どこかに穴があっても仕方がないとは思うのだが,弦の演奏も管打のアンサンブルも「見事」の一言につきる.細かいことをゴチャゴチャ言う気にはなれない.惜しかったのは座席のこと.チケットを買ったときには「ここは見えない席だが,音楽を聴くだけなら」など切符売りのおばさんが言うのだが,どうやら音楽を知らない日本人だと思われたのだろう.この日の席は舞台に向かって左側の高いところ.2ndVn&Vaの音がちょうど飛んでくるところだ.その演奏レベルの高さには本当に驚いた.また金管・打楽器と正対していたわけで,彼らの柔らかく統一のとれた音色もたっぷり堪能させてもらった.だが残念ながら歌手の声がオケに消されて聞きにくい.みんなほぼ完璧に歌っているとは思うのだが,誰が「ダメだった」とここで表するのは難しい.良かった,とはっきり言えたのは Papagenoの W.Rauch.あれれ,この名前,どこかで観たんだけど,資料がないので分からない.こんな聞き難い席であるにもかかわらず,ゆったりと響く素晴らしい歌であった.ちなみにこんなに大きな劇場なのだから,もちろんベルカント唱法でフルに歌いまくりであることは言うまでもない.夜の女王の M.Poblador も,あれをミスとして指摘するなら誰も歌えないぜという,最高レベル.プラハでのそれのように何らかのExcuseを込みにした感想を書く必要はない.後半は Pamina の I.Monar も良かったと思う.

 合唱はプラハ・Narodni Divadlo ほど良いとは思わなかった.それから歌手の一部と合唱が指揮を観ていないところがあったのが残念だった.ここは最新の設備があり,舞台から見える指揮者のモニターが用意してある.だから多少角度が変わっても指揮を見ることは可能である.指揮者は譜面は完璧に熟知しているようだった.ちょうど場所的に見えたから言うのだが,若干バトンテクニークに問題があるというか,部分的に見にくい棒があったようだがそれはレベルの高い話である.2幕のほぼ最後までは完璧な指揮ぶりであった.最後5分ぐらいが少し疲れて緊張感が切れた感じがあったが,そこまで良い演奏なんだから,あそこはまわりがカバーしなくちゃ.

 演出は「笑える」ことを出来るだけ意識したもので,私は歓迎.これから見る人もいるだろうから,ネタはばらさない.もっとも今から切符を買うことは無理だけど.

 最後に,これはどうでもいいことだが,指揮者はElizabeth Attl.名前から分かるとおり,女性である.

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