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プッチーニ「トスカ」 2nd Premier (Narodni Divadlo)  [2000音楽三昧 in Praha]

プッチーニ「トスカ」 2nd Premier (2000年11月28日(火),Narodni Divadlo) 

 今回プラハにやってきて,最初に見たオペラが Statni の「Toska」 だった(6/16).そのときの感想を読み返すと,まあ何とものを知らなかったことか,また何と謙虚なことか.半年足らずのあいだにずいぶん色々なものを見たんだなぁと思いながら,この日の Narodni Divadlo に足を運んだ.

 ご承知の方も多いと思うが,その劇場での初上演,また演出や舞台装置,音楽を全部一通り作り直して行う再演の初日を(日本でもフランス or イタリア語で)「プルミエ」と呼ぶ.オケも練習を重ねてその日に臨むし,歌手陣などもベストメンバーを揃えるから,この日は良い演奏が期待できる,また初物見たさということもあって,チケットの入手は難しい.一方で「通」は初日を終わって細かい修正をした上での再演,第2回の方が良いと言うらしい.こちらを「セカンドプルミエ」(一体何語?)と言うようだ.道理で,この日もダフ屋が随分出ていた.

 そのチケットを入手できた.席は1st garallie,日本で言うところの4階席だが,一番前であり,ここ Narodni は上の方が音がいいので,それも楽しみであった.

 指揮は,このところ立て続けに見せてもらってすっかり魅せられてしまっている O.Dohnanyil である.

 開演ギリギリに着席,プログラムも読まないうちに開演となったが,どうせ大したことがない筋書きだから,と思っていたのが大間違いだった.

 演奏はすごい.オケは 12-13-8-6-6 型,3管.おそらく Narodni のオケが総動員で演奏ということだろう.最初からもう気合いが入っているのがわかる.座った場所がいいのでオケの音が隅々まで聞き取れる.いい音だ.じっくり聞くうちに「プッチーニってこんなにすごい譜面を書いていたんだ」と驚嘆するほどだ.みずみずしさと迫力と転換の良さと,そしてリズムも結構良いものだと言うことがわかってきた.さすがに名作と言われるだけのことはある.演奏に細かく文句を言えば木管の音色に少し難が,とかわずかだが弦が弾けていない,ということはあるが,それはあら探しというものだ.好みではもう少し Tuba の音にスピードがあった方がいいが,プラハはそれを望もうとすると Statni の tuba のようにぶっ壊し系の音になってしまうので,それは無理だろう.早すぎないが緊張感がある音楽の進め方は本当に素晴らしいとおもう.

 歌手陣もさすがに揃えているという感じだ.トスカには「リブシェ」で大感激したE.Urvanova と,6月に「今日は大当たりだよ」とおばさんが言っていた Statni の「トスカ」で見た A-L. Bogza のダブルキャスト.どちらも大いに期待できる人だが,この日は Bogza.この演目はほとんどトスカ1人で歌うようなものなので,スターを揃えるんだろう.2幕の有名なアリアなどは,拍手が鳴りやまず,正味2分は続いたと思う.拍手の,しかも劇中アリアへの2分間の拍手はいくら何でも長いのだが.指揮者が次を構えたのでやっと拍手が終わったというほど.もっとも2nd garallieに「ブラヴォー・サーヴィス」がいてうるさかったのだけはちょっと興ざめだったが.スカルピアの I.Kusnjer も素晴らしい.カヴァラドッシの M.Ljadov も熱演.後は名前は省略だが,とにかく歌手陣はどれもすごい.

 合唱,とくに子供の合唱も入るが,これらもすごい.舞台裏から歌う合唱などの充実感には本当にいつもながら感動する.さすがは Narodni だ.「充実した」とはこのことを言うのだと思う.

 さて問題は,というよりもあまりにすごすぎたのでしっかりコメントしきれないのが演出だ.1幕が終わり,心にズシリと残った.まわりからも思わず「オォ」とため息が出るほど.2幕はそうでもないが,全体では「随分短いな」と思わせるほどのおもしろさ.よく「テレビドラマと映画の違い」として「映画は画面の隅々まで行き届いて凝っている.テレビはそれと比べると作りが雑だ」とよく言われる.それを思い出した.大きな Narodni の舞台を2倍にも3倍にも使って,また隅々まで色々と趣向を凝らしている.休憩の時にプログラムを読んでよくわかった.演出の V.Moravek 氏は私よりも若い人だが,その奥さんが近年亡くなったということなのだ.そしてそれを心に深く刻んだ彼は「愛と死」を前面に出してしっかり描こうとしたのだという.それを読んで演出がよくわかった.1幕は基本的に葬送の場面だった.そして最後の大合唱はレクイエムなのだ.2幕は割合普通の作り方だが,小物や音響,細かい動作など本当に凝った作りだ.そして3幕も葬送.これは元々そういう場面だが,そうした感情描写を表にはっきり出す演出だった.細かいネタについては書かないことにする.装置に相当凝っている.どういう凝り方をしているかは見てのお楽しみだ.この「トスカ」は演出家のそうした心の動きが演出にあらわれているのだが,ここでつかわれている手法はこれまでNarodni で見てきた 「カルメン」「リゴレット」「椿姫」に通じる,登場人物の感情表現を前面に出したものであるといえる.これらの感想でも述べたが,演劇を重要な柱と考えるこの Narodni Divadlo そしてプラハ,チェコの人たちにとってはこうした演出が好まれるのだと思う.実際見た感想から言うと,伝統的な演出も良いが,見る側にはこうしたものの方がわかりやすい.特にこの「トスカ」は演出家の気持ちがわーっと溢れてくるようで,こうした舞台は初めて見せてもらった.

 たくさん色々なオペラを見た後でこれに巡り会えたことは,本当に良かった.もっと早い時期,わかっていない時期にこれに出会ったていたら,単に「なんかすごい」で終わっていただろう.特にオペラをよく知った人に見てもらいたい気がするこの日の舞台であった.

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