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モーツアルト「フィガロの結婚」(Stavovske Divadlo) [2000音楽三昧 in Praha]

モーツアルト「フィガロの結婚」(2000年11月14日(火)Stavovske Divadlo)

 もう,病膏肓に入り,というべきか,それとも最後のあがきでガツガツしているというべきか,ここで見られるモーツアルトを全部見ちゃえ,というわけで,この日は「フィガロ」を見に行きました.プラハに来る前にはほとんどオペラを見たことがなかった私ですが,昨年冬に岡山まで来たワルシャワ室内歌劇場の「フィガロ」をみていたので,その記憶との比較になりました.

 先に演奏のことから書きましょう.指揮はもうその偉大さがわかった O.Dohnanyi. しかもこの「フィガロ」は彼がメインの担当なので大いに期待できました.実際,94年といいますから,もう6年も前にプルミエだったにもかかわらず,それほど緩んでいないという感じ.たとえば序曲などでもきっちりした早めのテンポで押し切るところなどはさすがというべきでしょう.スザンナの N.Melnik はおそらく初めて聞いたのですが,最初からバッチリ飛ばしていて,最後までそれが衰えず,各所のアリアもなかなか見事でした.伯爵夫人の E.Depoltova も,出てくるのが途中からになりますが,だんだん調子が上がってきて,手紙の2重唱などは結構良かったと思います.その一方で男性陣はいまいち.何度か聞いたと思いますが,伯爵の J.Kubik はまあまあだった.特に最後の方ではよかった.もう少し最初から飛ばしてくれないと,飽きるぜ.いただけなかったのはフィガロ.名前は書かない.4幕の後半をのぞいて,喉を開けて太い声を出そうと努めているのが丸わかり.ということは喉に力が入っているのがはっきり分かる.だから「おわおわ」言っているだけで何を歌っているのか分からない.おまけにそういう人間の声を聞いていると,こっちまで喉が締め付けられるような気がするのです.特に風邪を引いて喉が痛く,公演中に咳を押さえるのに苦労していた私には,本当に苦痛でした.最後のところでやっと声が伸びてきたけど,もうすでに時遅し.

 この前見た「魔笛」(Stavovske, Statni)も合わせて考えると,やはりBass歌手には人材はあまり多くないんだろうなと思いました.いい人は少しはいるようだけど.実際,Bass に回ってくる役は多くないし,そうすると飯が食えないから人口が増えないというのが正直なところでしょうが.だからTenor や Baritone ではたとえばこの日の音楽家バシリオの J.Hruska でも判事の J.Cee でも,役は大きくないけど立派な演奏でしたから.

 それから演出について.実は先日「魔笛」を見るつもりで息子にさんざん仕込んで妻が連れて行ったら,突然の演目変更で「フィガロ」になってしまって,1幕最後までようやくたどり着いた(見た)ものの,妻も面白くないといって帰ってきてしまった,という一件があったのですが,その理由が見て分かった気がしました.まあ「フィガロ」は筋が少しゴチャゴチャしていて,知らないと何だか分からない,というのも一つの理由でしょうが,それよりもまず「舞台装置が面白くない」.人々の動きは笑える演出,というよりどちらかというと,「おいおい,そこまで下品にやるか?」というほどのもの.でもモーツァルトのオペラは元々そんなものだから,それはいいかもしれない.小学生ぐらいのお嬢さんの姿も見えたが,彼女にはさすがにちょっとよろしくないが.でもスザンナが小部屋に隠れているケルビーノを窓から逃がして代わりに中に入るんだけど,あれは中にいるのがケルビーノに違いない,夫人がケルビーノと逢い引きをしていたに決まっていると疑っている伯爵が「道具を取りに行くときには,外から鍵もかけて完璧だった,入れ替えなんか出来るわけがない,それなのに(実は入れ替わって)中にはスザンナがいた」とびっくりするところが重要なのだが,「窓」がなく,後ろに張ってある幕が突然開いてそこから逃げ出す,というのでは,何なのか分からない.こちらは元のからくりを知っているから,あれはそういう意味だとわかるのだが,知らずに観た人にとっては,たとえイタリア語が分かって歌詞が全部聞き取れても,何のことだかわからないだろう.おまけに,そのあと「伯爵様」といって貢ぎ物を持ってくる男がそのさっきケルビーノが逃げていったところから入ってくるのだ.何の説明もなければ,そうした「笑うためのからくり」がわからない.衣装やそのほかも含めて全体的に「モダンスタイル」に近い感じの演出なのだが,舞台装置が中途半端で面白くない.でももう随分前に作ったもの,実はこれをステップにして今年6月新作の「ドン・ジョヴァンニ」を作ったのか?これは習作か?などと言いたくなってしまう.

 だんだん目や耳が肥えてきたということもあるのだろうが,どうも不満足なこの夜であった.

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