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スメタナ「リブシェ」(Narodni Divadlo) [2000音楽三昧 in Praha]

スメタナ「リブシェ」(2000年10月28日(土),Narodni Divadlo)

 スメタナという人は,我々日本人にはなじみがあると言うべきか,ないと言うべきか分からない作曲家である.交響詩「モルダウ」のメロディを知らない人はいない.もっともモルダウというのはドイツ語名で,こちらでは Vltava というのだが.「ヴルタヴァ」は交響組曲「我が祖国」に入っている.ところがその中の2曲目である「ヴルタヴァ」と第1曲目の「ヴィシェフラド」(高い城)は結構聞き覚えがある人が多いのだが,他の曲を知っているか,というとほとんど知られていないのではないだろうか.あとはオケの難曲として知られる「売られた花嫁」の序曲ぐらいだろう.たとえば「チェコ舞曲」なんてのも私は全く知らなかったし,多くの人はそうなのではないか.

 しかしこのチェコにおいては,スメタナはもっとも尊敬されている作曲家である.もちろんドヴォルザークもマルティヌーもヤナーチェクもなのだが,スメタナほどではない.そして彼のことを「戦闘的音楽家」と評した人もいる.実はこの日の「リブシェ」はそれを知るのに絶好の機会だと思って大いに楽しみにして行ったのであった.

 なぜこの日か・・・この日はチェコ&スロバキアが(一つの国として)長いハンガリー=オーストリア二重帝国の占領下から独立した日である.もちろん祝日であり,各地で色々な行事が行われる日.特に「チェコ民族の独立の日」であって,非常に彼らが誇りにしている日なのだ.

 そしてもう一つ.この「リブシェ」はこの国民劇場 Narodni Divadlo のオープン・こけら落としのために作曲されものだからである.この Narodni Divadlo は,プラハの市民が資金を出し合って「チェコ人のための劇場を」と建てたものである.当時この国はドイツ語人の支配下にあり,それまでドイツ語の使用を強制され,チェコ語は人形劇などでしか使うことを許されていなかった当時の彼らにとって,こうした立派な劇場は民族の誇りであった.そのオープンを間近に控えたある日,この建物はなぜか全焼してしまった.支配階級の関係者の放火ではないかという噂があったそうだが真偽のほどは分からない.それよりもすごいのは,もう一度募金を集めて2年後に再建したという話である.(放火しても意味がなかったので?)支配者・ドイツ語人は対抗して大きなオペラ劇場を作った.それが Statni Opera である.Narodni Divadlo の大きな舞台の上には「国民自身のために」と大きく書いてある.そのオープニングのためにスメタナが書いたOpera,それはこの国の発祥の伝説になっている王女「リブシェ」の物語である.伝えられるところ,7世紀頃,その「ヴィシェフラド」に「リブシェ」という王女が住んでいた.聡明な支配者であったが,女性であることを不満に思う民も多かった.そこで,まわりの勧めに従い,村の聡明な若者を,あなたが王になるのです,私がお願いするようにちゃんと国を治めてくれますか?と言って説得して結婚し,このプラハおよびチェコはこれで将来大きく発展する,と宣言したというのである.

 この話が真実であるかなどはどうでもいい.ただチェコ人たちがこれを誇りに思っていることは事実だ.そしてスメタナは二重帝国の支配下にあってこれをオペラ化し,「チェコよ,永遠なれ」と高らかに歌ったのである.スメタナはこのように圧制に心まで屈しないように,民族の誇りを人々に呼びかけた,つまり音楽を通じて反二重帝国闘争をしたのである.

 昨年の新演出をたまたま見ることができて,近いうちに再度見る予定になっている「売られた花嫁」も,こういう露骨な形ではないにせよ,チェコ民族の踊りや音楽をふんだんに盛り込んだオペラになっており,当時の人たちに大いに受けたことは言うまでもない.

 そんなことを知った上で出かけたのだが,結論を言えば予想を上回るものすごい舞台,ものすごい音楽,ものすごい観客の盛り上がりであった.メインキャストである リブシェのE.Urbanova の堂々たるステージ,そのほか P.Cervinka, L.Vele, V.Okenko, M.Podskalsky, J.Kubik, H.Kaupova, M.Volkova, V.Novakova, J.Sobehartova, P.Aunicka, M.Svejda・・・プログラムに名前が載っている人はこれだけだが,彼らの素晴らしい歌唱,また合唱団の重厚かつ綿密な歌声,そして何といっても O.Dohnani と Narodni Divadlo のオーケストラ.感想文としては全く失格だが,とにかく綿密で熱い.敢えて思い出すところを取り上げて言えば,序曲の金管,そしてそれに続く各セクションの音の充実ぶり,2幕1場の後奏の弦楽器の美しさ,3幕冒頭の木管のアンサンブル,3幕最初の「リブシェ様,あなたが選んだあの者と結婚なさいませ」の女声合唱の重厚さ(!),そして最後に向かっての E.Urbanova の歌と合唱の盛り上がり・・・・いちいち挙げるのが野暮である.

 そういう内容だから,と言うことだけではなく,お客さんが総立ちになったのは演奏があまりにも素晴らしかったということの現れであると言えよう.

 夕方5時から始まったこの日の公演であるが,人々は着飾ってきて,同時に子供を連れた人の姿も結構見た.このサイトは国立大学の中にあり,私も国家公務員,教育職公務員であるから政治的に偏向した主張をするつもりはないが,彼らをみていて,国・民族についての見方をもう一度考え直さなくてはいけないと強く感じた.今の日本人の若い世代に,自分の存在として家族,社会,国,地球という存在をしっかり認識している人がどのくらいいるのだろうか.たとえば「天照大神が」とか「神武天皇が」と言うとすぐに「右寄りだ」「軍国主義の復活だ」と騒ぐ人がいるが,教え方が悪いから軍国主義などになってしまうのであって,だから知らせない,というのは全くの間違いだ.国旗・国歌についてもそうである.あれは歴史がしっかりあるのだ.そしてその多くの部分は悲しいものとして認識している人が多い.それを全部含めた上でしっかり教え,しっかり掲げ歌い,そして将来日本が世界に冠たる平和国家になっていくように導くのが教育者の務めであると思う.

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