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小林研一郎指揮 チェコ・フィル(Dvorak Hall) [2000音楽三昧 in Praha]

小林研一郎指揮 チェコ・フィル(2000年10月20日(金) Dvorak Hall)

 初めてチェコ・フィルを生で聞いたのがこのまえの All Rise.これはすごかったけど,どちらかといえば「際物」に属するかも.それに対して,今回は「悲愴」など普通(っぽいと思われる)曲であるから,普通のチェコ・フィルを聞けるという意味では,初めてといっても良いものである.

 ドヴォルザークホールはヴルタヴァ河のほとりに立つ「芸術家の家 Rudolfinum」にある.チェコ・フィルの本拠なのだが,ちょっとホールは小さめか.席が前の方しか取れなくて,かぶりつきだったのだが,まあ仕方ないということにしよう.チェコ・フィルのチケットを入手することは結構大変で,オペラよりは取りにくいと言っていいだろう.

 「こばけん」さん(と呼ぶことにさせてもらう)はもちろん大指揮者である.そしてこのチェコ・フィルの終身客演指揮者である.それほどチェコ・フィルの,そしてプラハの人たちに親しまれているのだ.そういうことも見たいとおもってこの日は出かけたのであった.

 1曲目.グリンカ「ルスランとルドミラ」序曲.オケをやっている人ならみんな知っている,弦の難曲である.しかし彼らには正に朝飯前のようである.にこりともせず,普通にさらりと弾いている.ただ「こばけん」さんがブンブンドライブするのでその通りには演奏している.実力をまざまざと見せてくれる演奏ぶりであった.

 2曲目.「こばけん」さん自身が書き,今回リメイクした「パッサカリア」.演奏の前に曲の背景,構成について説明.日本語で話してチェコ語の通訳が付く.前にいるから良く聞こえてよくわかるが,まあそれはプログラムにも書いてあるから良いことにしよう.3管にピアノにハープにオルガンと,オケは大きいのだが,私にはそれほど大きな編成にしない方が良かったのではないかという気がしたのだが,まあ素人意見である.

 3曲目.休憩後の演目はチャイコフスキー「悲愴」である.私がこの曲のスコアを買ったのはもう20年以上も前になり,隅々まで知っていて,特に聴きたい曲ではない.おそらくプロのオケの演奏を生で聴くのは初めてではないか.しかしこれは「こばけん」さんとチェコ・フィルの信頼関係を聞くには良いプログラムだった.1楽章序奏の最後はクラリネットと(チャイコフスキーは書かなかった)バスクラリネットの最弱音で終わり,主部に入る.このピアニッシモの美しさは本当に涙が出た.主部は荒々しさを前面に出した演奏なのだが,演奏レベルが高すぎて荒くはない.変な表現になってしまうがそういう感じだった.この楽章の最後のトロンボーンのコードは,こんなに良く音が合った,しかも柔らかいコードをこれまでに聞いたことがない.こういう響くホールには最高のサウンドだと思う.ちなみに同じことは4楽章にも言える.全体からみて出色は2楽章と見た.中低弦から始まるメロディと木管の掛け合いは,完璧というか入っていく余地がない.この割り切れない「不安な5拍子」がぎくしゃく聞こえない.完璧だ.だが「不安」なのだ.3楽章,4楽章についてはもっと違った別の感想をもった.正直なところ,「こばけん」さんの解釈は嫌いだ.ああやってねじ回す3・4楽章は私は好きでない.そしてそう思う人は他にもいるのだろう.普通だったらオケの団員も,だ.突然東洋から来た客演の指揮者があんな解釈でやったら,オケがそっぽをむくこともあるかもしれない.だが,だがしかしである.オケは「こばけん」さんの意に忠実に添って見事な演奏をしている.だから良く聞けば「オレは違うぞ」と思うのだが,さっと聞けば素晴らしい演奏なのだ・・・

 これはおまけなのだが,ステージ上の「こばけん」さんと団員の様子が見られたこともとても幸いだった.「こばけん」さんは曲が終わるごとに団員にも深々とお辞儀をした.実際,「こばけん」さんはコンクールもそうなのだが,チェコ・フィルを指揮しての演奏で世に認められたのだ.おそらく「こばけん」さんにしてみれば,自分はチェコ・フィルに育ててもらったという気持ちなのだろう.そしてあれだけ世界で活躍している今でも,そしてメンバーが当時とは入れ替わっているとは言ってもやはりチェコ・フィル,その気持ちをいつまでも忘れないのだろう.そうした「こばけん」さんの人間性と共に,チェコ・フィルの団員たちがいかに「こばけん」さんを尊敬しているかがその表情・振る舞いからもよくわかった.これじゃあプラハの人たちもチェコ・フィルも「こばけん」さんを離したくないわけだ. 

 音楽は人間が奏でるもの.心を持った人間が作り出す音が音楽の根本.そうしたことを改めて心の底に刻み込んでくれた演奏会であった.演奏会終了後,プラハでもっとも美味い Plzen Prazdroj の店で飲んだ味は格別であった.

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