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確かに脳死だ [社会の問題について]

こんな本を読んでいる。


報道の脳死 (新潮新書)

報道の脳死 (新潮新書)

  • 作者: 烏賀陽 弘道
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/04/17
  • メディア: 新書



著者は朝日新聞を退社してフリーで活躍するジャーナリストである。Twitter 上でも @hirougaya は大活躍である。

氏がtwitter上で数々述べてきた、大手マスコミの体たらくぶりを大きくまとめ、現状に対して警鐘を鳴らしている本だ。なかなか面白い。(全部読み終わったら、この辺を少し書きたそうと思う)

そんなことを思っているうちに、同書が指摘するようなひどい新聞記事を見てしまい、思わず書きたくなった。

2012.4.23 朝日新聞(大阪本社版)社説 「大学改革」~授業と入試を一体で

話は文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会の審議内容とそれに関連して文部科学省サイドが言っていることを指すようだ。2012年03月26日 「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」(審議まとめ)

この社説はまだ穏当である。大学改革の中に、授業改革は当然主要な位置を示す。実際、ずいぶんやっているところも多い。だが入試に問題があるために、本来大学入学前に身につけておくべき能力が備わっていない大学生が多いようだ、だから授業改革もなかなか実を結ばない、だから入試改革を、というような文章だ。

一応、我慢できるが、これは誰に向けて投げている文章なのかよくわからない。問題は大学にあるのではない。大学入試の制度に関する、文部科学省の硬直化した体制が問題なのだ。前から言っていることだが、入試制度の改革なんて簡単だ。国立大学に大学入試センター試験の使用を義務づけることを止めればいいのだ。そうなれば東大や京大を始め、旧帝大クラスは利用を止めてしまうだろう。若しくはある基準点をクリアしているかどうかだけを見るように使うだろう。同記事には

・・・いまさら詰め込み式、暗記方の勉強に戻せと言うのではない。大学の授業に対応できる程度の学力の有無を知識の量よりも思考力を測ることで見極める。そんな入試制度に改善することが求められている。・・・細部にわたる知識の量よりも、考える力、論理を組み立てる構想力などが要る。


とある。その方法論として最適だ。

まあ、共通テストとしての意味もあるだろうから、存続させたい人の意見はわかる、とだけ書いておこう。

だがひどかったのはこれを受けて書いたであろう、同じ朝日新聞大阪本社版・記事有論 2012.4.27「大学教育の質 外圧受ける前に自ら動け」 である。上記審議まとめについて述べた上で次のように書いている。
教員が真面目に学生に向き合うほど、自分の研究に割ける時間と労力は減るかもしれない。研究を深めなければ、教育も浅くなる。しかし、知識や学問の蓄積を授業に注ぎ、学生主体の教育に切り替える教員がもっと出てきてもいい。人材を育てて社会に送り出すことが、大学の大事な役割だ。その原点を疎かにしてきた結果、大学は「学生に主体的な勉強を」などと言う初歩的な注文を受けてしまっているのだ。

がっかりである。古くから言われているステレオタイプな大学教員像に乗って、現状を見ずに書いた妄想だ。しかもまとめがひどい。
大学は外部からの干渉を受けず、自由に教育内容を決め運営する「大学の自治」の原則がある。しかしこのままではその自由もおぼつかない。事細かに外圧で縛られる前に動かなければ、大学は大学でなくなってしまう。 後はない。

大学入試は高校以下の教育に大きな影響力を持つ。大学入試を受けない生徒に対してもである。ところがそのあり方を文部科学省が悪い方向に縛っている。「事細かに外圧で縛られる前に動」く話ではなく、「ひどい縛りがあるので身動きが取れないのをどうするか」が現状なのだ。

入ってくる段階で全くアサッテを向いている学生を、大学の間だけで、しかも3年弱でそんな立派な人間に育てるなど、ほとんど不可能だ。しかし留年率が高いと文部科学省から文句が来る。留年率が高いことが教育力の低さを物語っているという理由だと思うが、そうやって圧力を掛ければ、「アウトプットの品質保証」をせずに取りあえず卒業させてしまうことになり、結果的に社会全体にいい影響はない。もし、教育力が低いからなかなか卒業出来ないということになれば、勝手にその大学のブランド力が下がっていく。だからそこは自由競争でよいのだ。だが文部科学省はそういう風にはしない。あくまで統制一辺倒だ。

こんなことは、熱意を持って学生の前に立っている一線の大学教員なら誰でも言えることなのに、これを書いた社会部の山上浩二郎記者は全くそんなところに取材に行かず、先入観だけ記事を書いたように思われる。

だとすれば、確かに脳死だ。





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